宇宙暴走族ボーゾック一の美女=ゾンネットからレッドレーサー=陣内恭介がラブレターを貰ったのは、カーレンジャーとして戦い始めてから、数ヶ月経ったある日の事だった。
 仲間達の意見はまちまちだった。
 グリーンレーサー=上杉実は、
「案外ええ子なんやなぁ。付き合ってみたら?」
「いけません!罠かもしれないでございます!」
 いい加減に発言する実を押しのけるように言う、ブルーレーサー=土門直樹。
 ゾンネットの書いた手紙を読みながら、女性陣=イエローレーサー=志乃原菜摘とピンクレーサー=八神洋子は、真面目な顔で恭介に言った。
「これは本気よ。ちゃんと考えてあげて」
「………」
 思いがけない展開に、恭介は戸惑っていた。
 そして―――。
「…なんであんな事言ったんだ?」
「………何の事?…」
 二人っきりになって、恭介は初めて実に問う。
 今は、直樹はダップと共に買い物に行き、菜摘は急ぎの仕事で仕事場に釘付け。洋子はいつものように事務所にいる。
 二人がいるのは自動車会社〔ペガサス〕の外。
 まだ静かな時間帯なので、〔ペガサス〕前の道を通る者は誰もいない。
 しかし、それでも恭介は注意をし、声をひそめて重ねて問う。
「何であんな事言ったんだ?」
「だから、あんな事って―――」
「何でゾンネットと付き合えって言った」
 空惚けようとしている実に単刀直入に言う。逃すつもりは無い。ちゃんと答えてもらう。
 実はいつもの笑顔を絶やさない。
「何でも何も、そう思ったから言っただけや。俺等ボーゾックと敵対しとうけど、分かり合えんわけでもないと思うからな」
 恭介は唇を噛んだ。
「お前もそう思わんか?」
「……思う。けど、それを何でお前が―――実が言うんだよ…」
(お前と俺は付き合ってんじゃないのか!?)
 心の中で付け足す言葉。
 それは言わずとも、実にも解っている筈。
 半ば睨むような視線を実に向ける。
 実はそれがどうしたとばかりに、皆といる時と同じ態度を崩さない。
「ええやんか、別に」
「…?!」
 驚愕する恭介を後目に、実は営業の為、〔ペガサス〕の社用車に乗り込んだ。
「実―――」
 尚も話しを続けようと、恭介が社用車に手をかける前に、実は車を発進させた。
「……実」
 後に残された恭介は、ただそう呟く事しか出来なかった。



      ●    ●    ●



(…『何でお前が言うんだよ』…か…)
 ピンクレディーの『ペッパー警部』が流れる社用車の中で、上杉実は嘆息した。嘆息せずにはいられない。
(…しゃぁないやんか。それともゾンネットに、『恭介は俺のんやから手ぇ出すな!』とでも言えちゅうんか?)
 そんな事出来る訳が無い。
 二人の関係は、仲間である同僚達にも内緒なのだから。
(ホモ―――嫌、同性愛は不毛や。非生産的や。…このまま関係を続ける事はできひん…)
 いつかは終る関係。
 なら、それは早い方が良い。
 機会があるなら、それを逃してはいけない。
(丁度ええ。…ゾンネットは宇宙暴走族やけど、男とちゃう。俺と続けるよりは障害は少ない筈や)
 ハンドルを強めに握りながら、実は大きく頷いた。
(それに…美人やし…巨乳やし…)
 胸に鋭い痛みが走る。
 傷ついている?
 どうして?
(…どっちかが女やったら―――どうなったんかな?)
 恭介が女だったら?
実が女だったら?
 普通に恋して告白して、仲間にも隠さずオープンなお付き合い?
「あー、でも。恭介が女やったら好きにならんかったかも…俺」
 男が好きという訳ではなく、恭介の性格そのままの女性に、恋心を抱くかどうか疑問である。恭介のあの性格で、あの言い方で、仕草で、だから―――、
「ひとつでも変わってもたら、それは恭介と違う…。俺は男である事もぜぇ〜んぶひっくるめて、あいつが好きなんや…」
 あたらめて気付かされる自分の気持ち。
 恭介の前で、演技をする事がなかなか難しいのも、それだけ彼を特別視している証拠。
 いままで付き合ってきた、どの女性よりも…。
 実は社用車を道脇に止め、ハンドルに頭を埋めた。
 絶望的にうめく。
「あー、なんでよりにもよって男にマジ惚れ?」
 仕事先には女性もいるのに…。
 しかし、菜敵と洋子にはそういった感情は芽生えなかった。二人はどちらかと言うと、家族のように思っている。可愛い妹のように見ている。
(直樹は弟やな…)
 どうせなら、その流れで恭介の事も弟か兄―――もしくは、幼友達くらいのノリで!
(ノリて…)
 自分の思考に苦笑する。
 恭介にはあんな事を言っておいて、結局、自分が一番彼と別れたくないのだ。願わくば、このまま時間が止まり、今のままの状態で一生を終えたい。
 到底無理な話。
(…解ってる…解ってるから、そやからゾンネットと恭介を…)
 それしかない。
 そうすれば恭介は幸せになれる。
「なれる!」
 実は、一度強くハンドルを叩くと、気持ちを切り替えて、社用車を発進させた。


      ●    ●    ●




 恭介は落ち込んでいた。
 誰の目から見ても、それは明らかだった。
 普段明るい分、落ち込むとその落差でよく解る。
 〔ペガサス〕の隅に座り込み、微動だにしない恭介をチラチラと盗み見しながら、菜敵・洋子・直樹は密談を交わしている。
「…どうしたんでございましょう?今朝までは元気でしたのに…」
「あの、ゾンネットのラブレターのせいかな?」
「でも、あれって考える事ではあっても、落ち込む事じゃないんじゃない?どっちかっていうと、嬉しい事だと思うけど?」
 と、菜敵。
「そうよねぇー。あの恭介って、どう見ても落ち込んでるよねぇ…。悩んでるわけじゃ、ないよねぇ…」
「一体何があったのでございましょう?」
 と…、
「どうかしたダップ?」
 四人目の声がした。
 振り向くと、そこに激走戦隊カーレンジャーの最高責任者&司令官であるダップが、買い物袋を手に提げ立っていた。
 恭介に聞えないよう、声を落として話しているところへ、急に、大声ではないがいつもと変わらぬ声量でダップが現れた為、三人は慌てて司令官の口を押さえにかかった。
「わっ…?!なっなんダップ!…」
「シー!静かに!」
「とにかくここから離れましょう!」
「それが良いでございます!」
 ダップの腕をつかみ、引きずりながら別の部屋へと移動する三人。勢いよくドアを閉めると、やっと彼等はダップを解放した。
「一体何がどうして―――」
 上がった息を静めながら、ダップは何とかそう言う事に成功した。手に提げていた芋羊羹の形が微妙にいがんでいる。
 その事を気にするダップの両肩を、直樹はしがみ付くように掴んだ。
「それなんでございます!」
「?」
 事態が呑み込めず、首を捻るダップ。
「恭介の様子がおかしいの…」
 沈痛な面持ちで、洋子。
「おかしい?」
「そうなの。何か、悩んでるみたいで…。何を悩んでるのか、どうして悩んでるのか、解らなくて…」
 いつも強気の菜敵でさえ、語尾が弱弱しい。
「こんな時、実なら、いつもの調子で聞けるかもしれないけど、今は営業で出てていないの」
「…それで?」
 話しを促すダップの両肩に、更なる衝撃が!
 直樹の手の上から、左肩に洋子・右肩に菜敵の手が重なる。
 ついでに、三人の声も重なる。
「そこで、ダップにお願い!」
「……へ?……」
 間の抜けたダップの声が、部屋に響いた。


      ●    ●    ●




 上杉実が〔ペガサス〕に帰って来た頃には、あたりはすっかり橙色に染まっていた。
 美しい夕日を背に社用車から下り立った実は、報告の為事務所へ向かう。夕暮れ時独特の、妙に物悲しい雰囲気の中、たった一人で廊下を歩く。
(…なんか、変な感じ…)
 いつもより足音を大きく感じる。
 たったそれだけの事なのに、人気がないからそう感じるだけなのに、どんどん精神的に落ち込んでいく自分を、実は情けなく思う。
(…〈ないーぶ〉になっとんやろか…?)
 別れ話を持ち出したから?
 本当は別れたくないのに?
 自分の気持ちに嘘をついたから?
 嘘なんてつけるわけないのに…?
「…嘘はつける…。本心は隠せる…」
 呪文のように口にしてみる。
 そう言えば、本当になるように。
「…………………」
 ため息が漏れた。
 自分らしくないと思う。
(…らしくない―――か。確かにそうやろな…)
 こんな自分知らない。
 上杉実はこんな男じゃない。
 上杉実はもっともっと、男らしい筈。
自分が決めた事に、いつまでもウジウジと後悔なんかする男じゃない。一度決めた事は、スパッとやり遂げる事の出来る男―――。
「…の、筈なんやけどなぁ…」
 出来ない。
 何故?
ホワイ?
グッテンタール?
「―――それはちゃう…って、そんなアホな事しとらんと、さっさと報告して帰ろ!」
 沈み続ける気持ちをわざと浮上させる為に、大声で言ってみる。声は誰もいない廊下に響き渡り、山彦現象を起こした。
 それを気にせず、事務所のドアを開けた。
 いつもと同じように。
 と、
「……何しとんねん…」
 思わず半眼でうめく。
「あ、お帰り。実」
 いつもと変わらぬ様子で、激走戦隊カーレジャーの司令官ダップは実を迎えた。
 実の眼の色が変わる。
「『あ、お帰り』とちゃうわー!こんな所で何しとんねん!社長か誰かに見られたらどうなるか―――」
 大声でまくし立てる実。ダップは、怒る実などどこ吹く風と、飄々としている。
 そんなダップの様子に違和感を感じた実は、叫ぶ事を止め、彼をジッと観察した。
「…?…」
「実」
 ふと、ダップは真面目な声で名を呼んだ。
「…な、何?」
 いつもと違うダップに戸惑う実。
 思わず、唾を呑み込んだ。
 ダップは夕日を背に浴びている。西向きの窓の前に立っているので当たり前だが、そのおかげで、彼の表情は良く解らない。
 少しでも表情をよく見ようと、顔の角度を変えてみる実。
………無駄な努力だった。
「ダップ?」
「実―――恭介と何があった?」
「……っ!?」
 思いもかけぬ問いに、一瞬息が止まった。
 動けなくなる。
 そんな実の様子を窺いながら、ダップは続ける。
「恭介の様子がおかしいから、聞いてみたんダップ。そしたら、ハッキリとは言わなかったけど、どうやら実と何かあったみたいだったから…。恭介と何があったんダップ?」
 先程の実の反応で、二人の間で何かあった事は、ダップの目にも明らか。
(……流石に、これで『何も無い』つったって、怪しいだけやろな…)
 反応しすぎ。
 事、恭介が絡むと演技が難しくなる。
 つまり、それだけ、
(俺の中で恭介が占める割合が大きいっちゅう事やろな…)
 事ある度に思い知らされる想いの強さ。
(…嘘はつける…本心は隠せる…)
 心の中で、それこそ呪文のように繰り返してみる。
 本心は隠せる。
 ―――本当ニ?―――
(…うるさい!隠せるったら隠せるんや!)
 実はダップに笑顔を見せた。
 ことさら明るく口を開く。
「あー、実はな。ちょっと喧嘩してもて…。あ、でもたいしたことあらへん。うん、明日にでも仲直りする―――」
 そのまま固まる。
 目が驚愕の為大きく開かれた。
 演技の皮はすっかりはがされ、生身の実がそこにいた。
 その前には、同じく生身の陣内恭介がいる。
 ダップは二人の間に立っている。
 どうやら恭介は、事務所の死角になっている所に隠れていたらしい。実が喋っている最中に、ダップの後方からすっと現れた。
 あまりに虚を付かれた為、実はどう反応したら良いのか見当がつかない。
 思い詰めた恭介の表情。
 あまり見る事のない表情。
 あまり見たくない表情。
 その表情をさせているのは自分自身。
自覚はある。
(………どうして…)
「実…一つだけ謝るな…」
 まだ動けないでいる実に、恭介は話し掛けた。
「………謝…る?…」
「ああ。……俺達の事、ダップに話した」
「……………」
 又、新たに固まる実。しかし、今度は動けるようになるのは早かった。
「はぁっ!?」
 思わず素に戻り、叫ぶ。
「すまん」
「嫌々、『すまん』とちゃうやろ、おい!」
「…だって、仕方ないだろう…?」
 思い詰めた恭介の表情。
 その表情をさせているのは自分自身。
「……何が?…」
「お前があんな事を言うから…」
「……………」
「…アレ……本気か?」
 実は即答する事が出来なかった。
 大きく息を吸い込んでから、笑顔で答える。
「当たり前やん」
「…嘘つき…」
 胸が痛い。
 どうして?
「…嘘なんかついてへん」
「ついてるよ」
「ついてへん」
「…なら―――」
 恭介の表情が変わる。
 叫ぶように恭介は言った。
「なんで、そんな泣きそうな顔してるんだよ!」
「……!?」
 泣きそうな顔?
 誰が?
(…俺が…泣きそうな顔?…………マジ?)
 自分の顔に手をやる。
 笑顔を作ったつもりになっていた顔は、確かに恭介の言うとおり、泣く一歩手前の表情になっていた。
 洋子が机の上に置きっぱなしの手鏡を手に取り、再確認。泣き笑いの表情の自分を見つめる。
(……馬鹿か、俺は…)
「…な。本当の事を言ってくれ。……本当は俺の事どう思ってるんだ?何であんな事言ったんだ?」
 実に詰め寄る恭介。瞳を覗き込む。
 実は恭介の目を見る事が出来ない。動けない。
 どうしようもなくて、動けないまま数秒が過ぎる。
 と、少し離れた所から、ダップの声がした。
「実。自分の気持ちには素直になった方が良いダップ。自分の気持ちには嘘はつけないものダップ」
 自分の気持ちに嘘はつけない。
 本心は隠せない。
(…んな訳あるかい…。…んな訳!)
「実!」
 恭介は実の襟を掴み、無理矢理自分の方を向かせた。強い意志を輝かせた瞳を実に向ける。
「お前らしくないぞ!ハッキリしろ!」
「……俺らしくない…か…」
(お前もそう思うんか?…やっぱり、らしくないんかなぁ…)
「実!」
 実を力任せに揺さぶる恭介。
 そんな恭介に、ゆっくりと視線を合わせる実。
「………っ!」
 恭介は息を飲んだ。
 手からか力が抜け、恭介は実を凝視する。
「……実…」
 恭介の困惑した表情を、揺れる視界の中で実はただ見ていた。―――ただ、見ていた…。
 色々な想いが交差する。
 どれが一番良いのか解らない。
(…いつもの俺ならどうするんかな…)
 何を言う?
 今、この時、この状況で、恭介に向かって…何を?
 自分は何を言いたい?
(…俺は、……俺は…!)
「うわっ?!」
 今度は実が恭介の襟を掴み上げた。
 事の展開について行けず、恭介は更に困惑の色を濃くした。見開いた目で実を見る。
「…み…実?」
「―――恭介!」
 腹の底から実は叫んだ。
 恭介を睨む。
(俺は俺は―――)
 何を言いたい?
 嘘をついたことに対して何を言いたい?
「恭介!」
 嘘はつけると思っていた。
 本心は隠せると思っていた。
 けど―――
 実は懇親の力を込めて言った。
「好きや!」
「……………」
 しかし恭介、無反応。
「……………おい…」
 堪りかねて、実は襟を掴んでいる手に更なる力をこめる。
 しかし、それでも無反応。
「……………」
「……おいって!…」
「……………」
「きょぉ〜すぅ〜けぇ〜!」
 恥かしさも手伝って、腹の底からフツフツと怒りが込み上げてくる。恭介の襟を掴む手を力任せに前後に振った。
「お前な!人がせっかく恥を忍んで告白したっちゅーのに、何で無反応やねん!なんか言えや!うんとかすんとか、あるやろ!な!」
 と、恭介はやっと反応を示した―――
「……うん…」
 一言。
 実の額に血管が浮き出る。
「―――〜お前なぁ…!」
 怒り心頭の実。しかし、彼の怒りは長くは続かなかった。恭介を殴ってやろうと、彼の襟から片手を離した時、恭介が口を開いた。
「…本当か?…本当なんだな?」
「だから、恥を忍んで本音を告白―――」
 実は目を見開いた。
 その網膜に、恭介の顔が映っている。
 満面の笑みの恭介が―――。
「そうか、本当か。俺、今、嬉しい!目茶苦茶嬉しい!ありがとう、実!」
 心底嬉しそうな恭介に、すっかり毒気を抜かれた顔で実は頷いた。又、急に恥かしくなり、恭介の顔を直視できなくなる。
 耳まで真っ赤になりながら俯く実。
(…はぁ。…何やっとんやろ、俺。余計な事考えんと、そのままで良かったんやんか…)
 恭介の笑顔を見ると、急に自信がわいてきた。
 このままで良いのだと…。
 このままの関係で良いのだと…。
(恭介は俺を選んだ。俺も恭介を選んだ。他の誰かとちゃう。互いに互いを選んだんや…)
「…例え不毛でも―――非生産的でも、全く意味がないわけでもないもんな…」
「え?なんだって?」
 少し間の抜けた表情で問い掛けてくる恭介に、実は照れた笑顔を向けた。
 恭介の腹に軽く拳を叩き込み、思いっきり抱きしめる。実の腕の中で咳き込みながら、恭介も実の背に手を回した。
「…実」
「すまんかったな。俺、ちょっと考えすぎとったわ」
「……よく解んないけど、もう嘘つくなよ」
 恭介の言葉を耳元で聞き、実は穏やかな微笑を浮かべた。
「…ああ。絶対せえへん。本心は隠せへんからな」
「それなら良し!」
 実るの背中を叩く恭介。
 実は咳き込み、恭介から身体を離した。
 抗議の声を上げる。
「…ッゲホ…!な…なにすんねん!むせたやないか!」
「何言ってんだよ。人の腹殴っといて。あれに比べたら優しいもんだろ」
 思わず言葉を飲む実。
 仕返しとばかりに、恭介は続ける。
悪戯な笑みを見せて。
「それに、今度は流石に酷かったぞ。俺、目茶苦茶悩んだんだからな。そりゃもう、仕事が全く手につかなくて困ったんだから」
 しかし、いつもの自分に戻った実も負けはしない。
「何言うてんねん!仕事らしい仕事なんて殆んどせいへんくせして。いつも寝とうか、サボっとうかのどっちかやんか」
「うっ!……でも、仕事もしてるぞ!例えばお客の所まで車を取りには行ったり―――」
「他には?」
「…えーと、…〔ペガサス〕内の掃除したり、タイヤ運んだり……えーと…」
 何故か、色気も何も無いこんな会話で二人の心は深く繋がっていく。否、色気が無いからこそ、きっと深まっていくのだろう。
「他には?」
「……〜ぅう、とりあえず!もうあんな嘘つくなよ!絶対に!」
「解ってるって。あんな下らん事もうせいへん」
「…………絶対だからな」
「しつこい。絶対や」
「よし!」
 二人を包む穏やかな空気。
 もう不必要な心配はしない。
 恭介の幸せも、実る自身の幸せも、結局は二人の関係の中にあるのだから。
(それで充分や…)
 不毛でも非生産的でも、幸せはここにある。
 ―――ここに。



      ●    ●    ●




「何だ。結局はただの痴話喧嘩だったわけね!呆れた」
 次の日の午後。ダップの報告を聞いた菜敵は、〔ペガサス〕の隅で座り込んだ状態で言った。
 菜敵と同じような呆れた表情で、洋子もぼやく。
「本当、人騒がせよねぇ。心配して損したぁ」
「でも、仲直りできて良かったでございます」
 嬉しげに言う直樹に、女性陣二人の射る様な視線が突き刺さる。
「…っう…」
「何言ってんのよ!あんなのはね、心配する価値も無いのよ!痴話喧嘩なんだから、ほっとけばその内おさまったのよ!」
「そうそう!」
 恐ろしい女性二人に囲まれて、直樹の顔色が悪くなる。無理矢理笑顔を作って、直樹の後ろからダップが助け舟を出す。
「まぁ、良いじゃない。ね?『仲良き事は美しきかな』ダップ」
「…使い方間違ってるわよ」
 半眼で菜敵は呟いた。
 ダップは首をかしげ、こめかみに人差し指を当てた。
「そうダップか?」
「そうよ!…あーもー、やってらんない!だいたい、何で可愛い女の子が二人もいるのに野郎同士でくっついてるかな!?信じらんない!」
 菜敵は立ち上がり、憤慨して叫んだ。洋子も立ち上がり、菜敵に続く。
「私達の魅力に気付かないなんて、どうかしてるわ!」
「ねぇ!」
「ね!」
 二人は全身から怒りのオーラを振りまきながら、それぞれの仕事場へと帰っていった。
 残ったのは可哀相な男二人。
「…あの様子では、もう暫らくは彼氏は出来ないでしょうね…」
「同感ダップ…」
 女性陣が消えていった方を見ながら、二人はポツリと呟いた。

 





 マイナーカップリングに嵌りやすい私。で、実×恭介♪
 でも、『告白』同様、これもどっちが攻めか解らんね。気持ち的には上の通りなんですが…。今度はもう少し進展した二人が書きたいなぁ。今回抱き合っただけですからね。

 

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