自分の故郷といえば日本（誰がなんて言おうと）。
日本の冬といえばコタツにみかん（ま、基本だろう）。
そして、日本の正月といえば寝正月（当たり前だな）。

そんな訳で―――

「はぁ…」

仮面ライダー２号・一文字隼人は至福の時を満喫していた。

「まるで海鼠だな」

こたつに下半身を突っ込んだままうつ伏せに寝転んでいる一文字を見、仮面ライダー１号・本郷猛は正直な感想を口にした。
それに頬を膨らませ、一文字は拗ねたような子供っぽい表情を本郷に向ける。

「もっと他に言い方ないのか？」
「例えば？」
「う〜ん、例えば猫とか…」
「ああ、なるほど。歌にもあるしな、“ネ〜コはコタツで丸くなる〜”」

微妙に音程の外れた歌を歌いながら、本郷も、一文字から見てコタツの左側面に中に足を突っ込む。
本郷の冷えた足が一文字の足に触れ、一文字はその冷たさに一瞬顔をしかめた。
コタツの上に置かれているみかんに手を伸ばした本郷を、体を仰向けに反転させ見上げる。

「今までどこにいたんだ？」
「研究室だ」
「正月そうそう熱心だなぁ」
「今年の抱負だからな」
「抱負？」

そんなのいつ決めたんだ？―――思わず一文字は首をかしげた。
本郷はむき終わったみかんを口の中に放り入れた。

「うまいな、このみかん。隼人もいるか？」
「ありがとう。………で？」
「ん？」
「抱負」
「抱負がどうかしたのか？」
「だから、今年の抱負ってなんなんだ？」
「ああ」

一文字用にみかんの皮をむきながら、本郷は笑った。
笑うような抱負なのか？―――と思いながら、一文字はとりあえず答えを待った。
みかんをむき終わり、それを一文字に手渡しながら本郷は答える。

「“去年しようと思ってできなかった事をする”だ」
「なんか曖昧な抱負だな」

正直な感想を一文字が口にすると、本郷は微笑を漏らしながら、

「やりがいはあるぞ」

と、答えた。
そりゃそうだろう。
一文字は渡されたみかんを一房口に入れる。
柑橘系独特の香が口の中いっぱいに広がり、それと同時に甘酸っぱい汁も広がった。
コタツに入って食べるみかんは最高だな―――などと、どこか年寄りじみた感想を思いながら、一文字は同じようにみかんを食べている本郷を見上げた。

「で、去年あんまりできなかった研究をしているのか？」
「ああ」
「思うようにいったか？」
「そんな直ぐに結果は出ないさ」
「まぁ、そうだろうな…」

もう一口みかんを頬張ってから、一文字は新たにわいた疑問を口にしてみた。

「研究以外に去年できなかった事って何があるんだ？」
「色々あるぞ。まず、悪組織の壊滅―――」

と、本郷は指を折りながら数え始めた。

「―――犠牲者の保護。両親の墓参り。たまっている資料の整理。それから―――」
「それから？」

妙な言い回しを感じ、一文字は体を起こして次を待った。
本郷は一文字に笑いかけると、彼に手を伸ばし―――

「……え？」

軽く、ついばむように、一文字の唇を自身のそれで触れた。
思いもよらぬ本郷の行動。
流石の一文字も少々面食らってしまった。
一文字が呆然としている間にもう一度本郷の唇が触れる。
今度は先程より長く、深く…。
最後に、名残を惜しむようにチュッ…と軽い音を立てて、本郷は一文字から離れた。
いきなりキスされた事と驚愕で、一文字は頬を赤く染めた。

「何するんだ、いきなり…」

やや低めの声で問いただすと、本郷は変わらぬ微笑で答えてきた。

「だから抱負だ」
「…“去年しようと思ってできなかった事をする”…」
「そうだ」
「だから？」
「だから―――」

一文字の耳に口を近づけ、本郷は一言囁いた。

「〜〜〜〜〜…////」

顔を真っ赤にさせながら、呆れた表情で一文字は本郷の顔を見た。
本郷は心底嬉しそうで、それでも流石に照れてきたのか、頬がほんのり赤かった。
何か皮肉でも言ってやろうかと思案したが、一文字は結局嘆息するだけにとどまった。
何故なら、

「……ま、望んでないなんて言えないからな…」

今度は一文字の方から本郷の唇にキスをおとした。

「俺も何か抱負考えようか…な？」

終

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注：本郷家のコタツは電化製品ではありません。昔ながらのコタツで、「中に顔入れてたら死ぬよ！」と怒られるタイプです。故に、基本的に電気コタツより熱いです。下手したら熱すぎて足を中に入れておけません。コタツなのに！（笑）